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浦和地方裁判所 昭和55年(ワ)1119号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

三原告は本件保険契約には要素の錯誤があり無効であるという。

<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 本件契約は、被告北浦和支部長森本及び同支部外交員三船美也子が数回にわたり原告及びその妻和子と交渉した結果成立したものであるが、原告(及び妻和子)の関心は、がん災害及び普通死亡の場合前記争いのない事実のとおり高額であることのほか満期保険額がいくらであるかにあつた。すなわち、各死亡保険額が高額であるのに伴ない月毎の保険料掛金額が金五万二、四六二円と一般に比較して高額であり、保険期間三〇年間には掛金合計額が金一、八八八万六、三二〇円に達するので、満期に返還されるべき満期保険額が本件保険契約をするかどうかを決める重要な点であつた。原告としては、三〇年後に掛金の大部分が返還され成可く少ない額でその間の生命の危険を保険すべき契約をしたいと考えていたため、その点について説明を求めたところ三船には不明であつたため、三船が上司森本にその旨告げ、森本が従前の配当金実績などを考慮し、配当金を三〇年間積立てた場合に返還される数額を予想し算定すると、金一、五七五万円になつた。そこで森本が用紙にその計算関係(その内容は、甲第一号証の一のうち上から六行目までと同一で、同七行目「現在解約返戻金」以下の記載を除くもの。)を記載し、これを満期受取額と表示して原告に交付した。原告は、森本から満期受取額がいわゆる満期保険額であると説明されたため、その旨信じ、三〇年間の保険に費消される額が右掛金のうち約金三〇〇万円で、一年当り額に換算すると、高い額ではないと考え、それが本件保険契約をする動機となつた。原告は森本及び三船に対し、右動機を述べ、契約するにいたつた。

(2) しかし、被告の定めた「第百の設計保険(がん・災害高額保障付き)」では三年目から配当金を支給され、満期まで利息をつけて積み立てられる「積立方式」、一年ごとの定期保険を買い増してさらに保障を厚くする「定期保険買増方式」(配当金を一か年先払保険料に充当したとき契約できる保険額を算定し、この額を保険額とし、期間一年として、新たに保険契約をすることをいう。)、毎年の保険料と相殺する「保険料相殺方式」があり、そのいずれの方式によるかは保険契約者が契約に際し選択することとなつている。ところで、原告の保険契約の意思としては、前記のとおり右方式のうち積立方式によることが明らかであつたため、定期保険買増方式については、本件保険契約の際森本らは何らの説明もしなかつた(したがつてまた、原告が森本らに対し、積極的に定期保険買増方式によらないことの意思表示もしなかつた。)

(3) 森本が原告との本件保険契約書(乙第一号証)の作成を担当し、原告に所要欄の前記押印を求め、森本がその余の配当金支払欄、満期保険金欄など所要の事項を記載したが、その際森本は配当金支払欄の「(1)定期買増(2)相殺(3)据置、表示なき場合は(1)」の印刷文字の「(3)据置」に丸印をすべきであつたのに誤つてその丸印を記載せず、満期保険金欄には積立方式による場合の金額を記載すべきであつたのに、その方式の場合の記載方法について十分に理解していなかつたため、定期金買増の場合の満期保険金三四〇万円をとり、「三四〇万円」と記載した。そのため、満期保険金が金三四〇万円であるとの本件保険契約が成立するにいたり、その旨の保険証券(甲第二号証)が原告に送付された。

以上のとおり認められ、一部右認定に反し、本件保険契約の際配当金で定期保険を買増した場合満期保険額が金三四〇万円となると説明した旨及び原告が配当金支払につき定期保険買増方式を選択した旨述べる証人森本幸雄の証言部分についてみるのに、そうだとすれば何故森本が積立(据置)方式による受取額を特に計算し原告に知らせたのかその理由が不明となり、これと矛盾するので、にわかに信用し難い。他に、右認定を左右する証拠はない。

前記認定事実によると、原告が本件保険契約をするにいたつた動機は、掛金総額が三〇年間で金一、八八八万六、三〇〇円であるのに満期に受領できる額がほぼ金一、五七五万円であることにあり、その点は本件契約の重要な部分を占め、いわゆる契約の要素となつているということができる。敷衍すれば、本件保険のような毎月の掛金が一般に比して高額となる場合、がん、災害、普通各死亡の保険額についてはもとより、満期にどれだけ返還されるかは重要な点である。保険料運用の結果生じた利益につき年毎に配当金が支払われる約定の場合これを満期まで積立てたときの総額が掛金総額に比較し高い割合であれば契約をしようと考えるのは無理からぬところであり、そこに保険営業の競争性の一面があるといえる。保険契約者としては、その配当金を積立てておいて満期に一時に取得するか、その配当毎に受領するか(保険料との相殺もこれに含まれる。)については、配当金支払方法の差異とみることができても、このような配当金を受領することと、配当金により新たな保険期間一年の保険につき契約を締結することとは異質である。その錯誤は、決して配当金支払についての錯誤ではなく、本件保険契約をするだけであるか、附随条件として、配当金支払の時点でその配当金全額(したがつて配当金は保険契約者の手許に残らない。)でそれに対応する保険額、期間一年の保険契約を締結することを含むものであるかについての錯誤であり、その結果、満期保険額が金一、五七五万円であると考えたのに、成立した契約では金三四〇万円にすぎないとの錯誤が生じたものとみることができる。右のような内容、程度からみて、原告の内心の効果意思と本件保険証券に表示された保険契約との間には錯誤があり、その錯誤は契約の要素に関するといえる。そして、右契約にいたつた原告の動機すなわち配当金を積立てて満期にほぼ金一、五七五万円受領することができるならば本件保険契約をするとの意思が、本件保険契約の際被告に対し表示されているものである。したがつて、本件保険契約は、民法九五条により、要素の錯誤があるものとして、無効となるものということができる。

この点の原告主張は理由がある。

(髙木積夫)

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